【講演】
「オープンイノベーションは四次元ポケット」
~ドラえもん世代の事業承継と第二創業~
有限会社浅野水産 常務執行役員 浅野 龍昇氏
宮崎県日南市は江戸時代からかつお一本釣り漁業がさかんで、近海かつお一本釣りの水揚げでは約30年連続全国1位の漁獲量を誇ります。浅野氏の家業である浅野水産も1967年の創業以来、かつお一本釣り漁法を生業としてきた地場企業の一つです。
先代社長の長男である浅野龍昇氏は国会議員秘書として働いていたため、後継ぎとして船に乗っていたのは次男の貴浩氏でした。かつおの漁獲量は、漁師の腕にかかっています。先代社長は、じきに船を降りるにあたり、経験の浅い貴浩氏と交代することで業績が不安定になることを懸念し、安定した経営のためにも事業多角化が不可欠だと考えました。
浅野氏が議員秘書時代にさまざまな業界、業種と交流する中で実感していたのは、漁業には多くの課題があるにもかかわらずイノベーションが起こりにくいということでした。漁師たちの主戦場は海なので、ネットワークが閉鎖的で陸とのつながりが希薄です。浅野氏はこれまで培ったネットワークを駆使して変革のためのチームを作ろうと考え、2019年に家業に入りました。
「ビジョンや戦略を生み出す際、“課題“にとらわれすぎると視野が狭くなってしまいます。頭を柔らかく、想像力を膨らませて、自分たちの会社がどうなったらワクワクするかを考えることが大切です。難しく考えるよりも、会社の若手を飲みに連れて行って夢を語らせるほうが早いかもしれません」と浅野氏。浅野水産では経営指針を「海業に関わる全ての人たちへウェルビーイングを」と位置づけ、これを軸にビジョンを策定していきました。同社のビジョンは、かつお一本釣り漁業をインテンシブな働き方を求める人たちの職業にすること。ノルウェーやアイスランドなどの漁業先進国の漁師のように、半年の働きで1年分稼ぎ、残り半年は丸々休むようなスタイルの働き方を選択できるようにするというものです。半年間で安定した稼ぎを毎年生み出すために、まずは漁業全体の課題でもある事業承継リスクの緩和にフォーカスしました。
「父が40年で培った漁師の経験と勘をAI化できないだろうかと、思いついたのはテレビドラマ『下町ロケット』を見ていた時のことです。実は漁業と宇宙ビジネスは密接に関わっており、“漁師の勘“は衛星から得られる潮流や水温のデータ、船のレーダーのデータなどに基づいています。船には父の手書きによる操業記録が20年分蓄積されていました」(浅野氏)