【講演】
「行列ができる鋳物屋~3K職場、新卒入社希望者ゼロから1000名へ~」
株式会社キャステムは、先代が1948年に金平糖などを作るお菓子工場として創業。1970年ごろ、機械の金型を作る鋳造工場を設立しました。戸田社長は1980年入社。「工場内は物置状態、こんな3Kの職場では誰も入社しない」と感じ、「楽しみながらものづくりができる工場」を合言葉に、お菓子(クッキー)作りをヒントに、樹脂などに金属の粉を混ぜて成型し、熱で樹脂を落として焼結させる金属射出焼結(MIM)のラインを考案しました。
同社は人的な技術力による小ロット生産を強みにしていましたが、バブル崩壊後の1992年、このままだと部品の値段と人件費が合わなくなると危機感を持ち、フィリピンに進出。危険だと周囲に反対されながらも、他に進出企業が少なければ技術者が集めやすいと考えたそうです。その後タイ、アメリカ、2015年にはフィリピンと同じ理由でコロンビアにも進出しました。リーマンショック、コロナ禍の波を越え、ここ2年は売り上げも急増。取引シェアは1%以下の顧客が6割超。「お困りのものを受けます」とチタンやタングステンなどの難しい加工注文も受けており、「精密鋳造部品をはじめ、某有名ブランドの金属ロゴや、医療機器の義手・義足の金属部品など、あらゆる分野の金属部品を作れるようになりました」と戸田社長。
社内では、ものづくりには若者の柔軟な発想が大事と考え、「夢構想発表会」を毎年開催。自分が社長だったらどんな事業をしたいかを有志がプレゼンし、従業員投票でトップ3のアイデアの事業化を検討します。ロビンマスクやモンスターボール虫カゴも、ここから生まれました。東京・日本橋にはBtoCのミニチュアやフィギュアの店「meta
mate」(メタマテ)をオープンさせるなど、若手従業員の思いを形にしています。戸田社長は自身の折り紙ヒコーキの飛行時間のギネス記録達成の話も。「楽しいものづくりを掲げて社風は変わりました。さらに、限界と思ったところから“もう半歩”やってみること。これが10年、20年の間にとんでもない差になります」と信条を語りました。
【トークセッション】
ファシリテーター:早田 吉伸氏(当協議会会長・叡啓大学教授)
続いてのトークセッションでは、ファシリテーターを早田吉伸会長が務め、ものづくり、組織づくりで革新を続ける戸田社長と語り合いました。
「既存組織と新規事業本部の二つの組織をつくり“両利き”の経営をされていることには驚き、注目しました」と早田会長。戸田社長は「既存の組織だけでは、新規事業が生まれにくく、生まれたとしても『採算があわない』『やめよう』となりやすい」と実情を解説します。「新規事業本部は当初3人でスタートした。既存組織でうまくやっていけないけれど、ものづくりでずっと遊び続けられる天才型の人材です」。
当然、始めは既存組織の反発もありながら、リーマンショックなどで「このままではまずい」という危機感が共有されたり、工場で問題が起こったときに新組織の人間が原因を発見して解決するなどの経験を経て、彼らの能力の高さを認め、理解しあえるようになってきたと戸田社長。そのうち新事業のものづくりで成功事例が出ると、既存組織からも「自分もやりたい」という者が出てきて、現在は30人、社員300人の1割の勢力になったと説明されました。
早田会長から「新規採用について苦労はないですか?」と問われると、戸田社長は「女性もものづくりに夢中になり機械操作が楽しめるよう、職場づくりを行ってきた。入社当初、事務職向きかなと思っていた女性も、『私はものづくりが向いています』と言ってくれる従業員もいるほどです。女性が集まれば、つられるように男性は増えてくる」。
戸田社長はまた、新規事業を継続するコツとして、「新規事業に10回取組んで、9回失敗しても1回成功すればいいというくらいの気持ちで、忍耐強くサポートすることが大切です」と心構えを伝えられました。
会場からは「新規事業の部署があることで、どんな社風が生まれますか?」と質問されると、戸田社長は、「一気に新規事業だけが盛り上がるということはありません。新規事業部の取組を、既存の部署の人たちが少しずつ理解し始めると、次第に互いが認めあう社風が生まれます」と答えられました。
ひろしま環境ビジネス推進協議会事務局
〒730-8511 広島市中区基町10-52 広島県庁東館2階
広島県商工労働局イノベーション推進チーム内
電話:082-513-3364 Fax:082-223-2137
E-mail:syo-kankyo@pref.hiroshima.lg.jp